名古屋高等裁判所 昭和30年(く)14号 判決
本件即時抗告の趣旨は岐阜地方検察庁検察官検事平岡俊将作成名義の抗告申立書に記載された通りであるからここにこれを引用し、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。
按ずるに、刑法第二十六条第三号にいわゆる「猶予の言渡前」とは「猶予の言渡の確定前」を意味するものと解するのを相当とする。けだし同号は刑の執行猶予の言渡を受けた者が前に他の罪について禁錮以上の実刑に処せられたことが判明した場合なお右執行猶予の言渡をそのまゝ存続せしめることは同法第二十五条第一項の趣旨に徴し相当ではないから、かような場合には同項第二号の場合を除き右執行猶予の言渡を取り消すべきものとするのであつてしかも右執行猶予の言渡はこれを言い渡した判決の確定を待つて始めて不動の効力を生ずるものだからである。
今本件についてこれを見るに、記録によると山田春子こと金台順は昭和二十九年七月十三日静岡地方裁判所吉原支部において覚せい剤取締法違反罪により懲役八月及び罰金一万五千円に処し、右懲役刑につき三年間刑の執行を猶予する旨の判決の言渡を受け、同人から控訴(昭和三十年四月二十三日控訴棄却の判決があつた)、上告(同年八月十日上告棄却の判決があつた)の申立をしたがいずれも棄却となり、前記判決は昭和三十年八月二十日確定したところ、同人はこれより先昭和三十年三月二十三日更に覚せい剤違反罪を犯し、これにより同年七月十五日前同地方裁判所支部において懲役一年六月に処する旨の判決の言渡を受け、その判決は同年八月八日確定したこと、その後にいたつて判明したことが認められる。して見ると、右は刑法第二十六条第三号に該当し、刑の執行猶予の言渡を取り消すべきものであること前記説示に照らし明らかである。
然らば右と所見を異にし、刑法第二十六条第三号に該当しないものとの解釈の下に検察官の本件刑の執行猶予の言渡取消請求を棄却した原決定は法令の解釈を誤つたもので失当であり、本件即時抗告の申立は理由があるから、刑事訴訟法第四百二十六条第二項により原決定を取り消すこととし、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 吉村国作 判事 柳沢節夫 判事 中浜辰男)